中小企業にとって銀行融資はややハードルが高い資金調達ですが、事業運営していくには資金調達は必須になります。
そんな中で近年、負債を増やさずに資金調達できるファクタリングが注目されています。ファクタリングは売掛債権の売却による資金調達ですが、負債にならない以外にも貸借対照表へ良い影響もあります。
今回はファクタリングが貸借対照表・バランスシートに与える影響について解説していきます。
ファクタリング利用でオフバランス化できる
貸借対照表におけるオフバランス化とは
ファクタリングを利用すると企業の貸借対照表に記載されていた売掛債権を帳簿から外す、いわゆる「オフバランス化」が可能です。
オフバランス化とは、企業の財務諸表上から一定の資産や負債を取り除き、見た目の財務状態を改善する手法を指します。
ファクタリングでは、売掛債権をファクタリング会社に売却することで、売掛債権が企業の資産として残らなくなります。これにより貸借対照表上の「売掛金」が減少し、資産の規模が縮小します。
同時に未回収リスクもファクタリング会社に移転するため、企業側のリスク軽減にもつながります。
例えば売掛金が減少することで、自己資本比率が向上し、純資産利益率(ROA)や流動比率などの財務指標が改善されます。そのため銀行や投資家からの評価が高まり、新たな資金調達や信用力の向上にも寄与します。
ただし注意点としてはファクタリング利用には手数料や諸費用が発生する点です。これらの費用が利益に与える影響も考慮しながら利用することが重要です。
またファクタリングの契約内容によっては、売却した売掛債権に対する一定の管理や報告義務が残る場合があるため、契約書の確認が欠かせません。
オフバランス化は単なる帳簿上の操作ではなく、企業の財務戦略における重要な選択肢の一つです。適切に活用することで、健全な資金繰りと財務体質の構築を支援する有効な手段となります。
ファクタリングの貸借対照表の記帳方法・仕組み
ファクタリング利用時の貸借対照表への記入方法
ファクタリングを利用する際、貸借対照表では売掛債権を処理することになります。具体的には企業が持つ「売掛金」をファクタリング会社に売却することで、売掛金が貸借対照表から除かれます。
その結果として資産規模が縮小し、貸借対照表がスリム化します。
売掛金の消失により、企業の自己資本比率や流動比率などの財務指標が改善され、財務状態がより健全に見えるようになります。
このオフバランス化によって、未回収リスクが売却先であるファクタリング会社に移転するため、経営リスクの軽減にもつながります。
ファクタリング利用時の仕訳・会計処理の方法
ファクタリングの会計処理では、「売掛金」を「未収金」として計上し、その後、売却代金が入金されることで未収金を消す形で処理します。
売掛金を売却する際の仕訳
売掛金をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額を受け取る際の仕訳は次の通りです:
- 借方
- 未収金(資産の増加):売掛金の売却代金
- 売掛金債権売却損(費用):手数料
- 貸方
- 売掛金(資産の減少):売却した金額
売掛金が実際に入金された際の仕訳
売掛先から売掛金が回収され、ファクタリング会社が掛け目分を精算してくれる場合の仕訳は以下の通りです。
- 借方:現金(資産の増加):精算後の掛け目分
- 貸方:未収金(資産の減少):残りの売却代金
このようにファクタリング利用時の会計処理は、売掛金を未収金として一時的に処理し、その後、入金を確認して未収金を消す形で行われます。
この仕組みによって、ファクタリング利用は企業の資産構造を大きく変えずに資金調達を可能にします。
ファクタリングは貸借対照表の改善とキャッシュフローの安定化に役立つ一方、適切な会計処理が求められるため、経理担当者や税理士と連携して進めることが重要です。
ファクタリングの貸借対照表へのメリット
経営状態を健全に見せることができる
ファクタリングを利用することで、企業の経営状態を財務諸表上で健全に見せる効果が期待できます。売掛債権をファクタリング会社に売却することで、貸借対照表上の「売掛金」が削除されます。
これにより未回収のリスクを取り除き、流動資産が現金に置き換わる形で反映されるため、財務体質が安定しているように見えます。
特に取引先や金融機関に対して、健全な経営をアピールする際に有利にはたらきます。
ファクタリングは借入・負債にならない
ファクタリングは売掛金を売却して現金化する取引であるため、融資や借入とは異なります。そのため貸借対照表上に負債として計上されることはありません。
融資ではなく「資産の売却」による資金調達であるため、財務状況が悪化するリスクを避けつつ、スピーディに資金調達が可能です。
この特徴は特に既存の借入枠を増やさずに、資金を調達したい企業にとって大きなメリットです。
自己資本・現金比率を高くすることができる
売掛債権を現金化することで、貸借対照表上の「現金および現金同等物」の項目が増加することになります。結果として、流動比率や自己資本比率といった財務指標が向上します。
これらの比率が改善されることで、企業の安定性や資金繰り能力を示す指標が良くなり、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなります。
また現金比率の向上により、突発的な支出にも柔軟に対応できる財務基盤を整えることが可能です。
ROAが改善される
ファクタリングによる売掛債権のオフバランス化は、ROA(総資産利益率)の改善にも寄与します。売掛金が削除されることで、総資産が減少する一方で利益が維持されるため、ROAが向上します。
ROAは企業の収益性を示す重要な指標であり、これが改善することで投資家や取引先からの評価が高まります。
特に収益力を重視する業界や投資家にとって、ROAの改善は大きなアピールポイントとなります。
企業価値が高くなり融資が受けやすくなる
貸借対照表の改善により、企業価値が向上することもファクタリングのメリットです。ファクタリングの活用によって、健全な財務体質を維持しながら現金比率や自己資本比率を高めることで、企業の信用力が向上します。
これにより銀行や金融機関からの融資が受けやすくなり、より有利な条件で資金を調達できる可能性が高まります。加えて取引先との関係強化や、新規ビジネスチャンスの獲得にもつながるでしょう。
ファクタリング利用時の注意点
ファクタリングは売掛金を活用した資金調達方法で、迅速に現金を得られる利便性がありますが、注意点を理解せずに利用すると経営に悪影響を及ぼす可能性があります。ここでは、利用時の具体的な注意点を解説します。
過度な利用は資金繰りを悪化させる
ファクタリングを頻繁に利用することは、短期的には資金繰りの改善につながるかもしれませんが、長期的には逆効果となる場合があります。
ファクタリングは売掛金から手数料を差し引いた金額が入金されるため、実際の資金繰りが厳しくなるリスクがあります。
特に売掛金を次々と現金化することで資金循環を回している場合、自転車操業状態に陥る危険性が高まります。
ファクタリングの利用はあくまで一時的な解決策として考え、根本的な経営改善策を並行して行うことが必要です。
ファクタリング手数料は融資金利より高い
ファクタリングは融資とは異なり、売掛金の売却という形で資金調達を行うため、手数料が融資金利よりも高くなることが一般的です。
手数料相場としては売掛金の5〜20%程度となることが多く、特に2社間ファクタリングでは高額になる傾向があります。そのため売掛金の現金化による収入が期待通りに得られない場合、コスト負担が大きくなるリスクがあります。
手数料が経営に与える影響を慎重に検討することが重要です。
悪徳・ヤミ金業者が存在する
ファクタリング業界には正規業者だけでなく、悪徳業者やヤミ金業者も存在します。
これらの業者は「審査なし」「即日資金化」といった言葉で利用者を引きつけますが、実際には法外な手数料を請求したり、契約内容が不透明であることが少なくありません。
信頼性を確認するためには公式ウェブサイトの買取実績・代表者・固定電話の公開・口コミ、業者の運営実績を慎重に確認する必要があります。
特に契約書の控えが提供されない業者や契約内容が不明瞭な業者は避けるべきです。
ファクタリングを装った融資契約に注意
一部の業者はファクタリング契約を装って融資契約を結ばせるケースがあります。このような契約では、形式上は売掛金を活用していますが、実際には債務を伴う融資として扱われることがあります。
契約内容に「償還請求権あり」「買戻し特約」などが含まれる場合、これはファクタリングではなく融資契約であり、売掛先が支払い不能に陥った場合には利用者が返済義務を負います。
ファクタリングは免許取得は不要で事業ができますが、融資の場合は貸金業登録が必要です。そのため貸金業登録してない会社が融資行為を行うことは、違法行為に該当します。