電子記録債権とファクタリングは両者ともに売掛債権の譲渡を行うものですが、倒産時のリスクや手数料などに違いがあります。
今回は電子記録債権とファクタリングの違いについて解説しながら、どちらがおすすめなのを紹介していきます。
電子記録債権とファクタリングの違いは何か
支払いリスク・返済義務の違い
電子記録債権は債務者が支払いを記録し債権者が受け取る仕組みで、基本的に債務者が支払いを行う義務を負います。万が一支払いが滞る場合でも、電子記録に基づく請求が可能です。
一方ファクタリングでは、利用者（債権者）が売掛債権をファクタリング会社に売却することで資金を調達します。多くの場合、ファクタリング契約には償還請求権がないため、売掛先が倒産しても利用者に返済義務は発生しません。
このためファクタリングは支払いリスクを軽減したい場合に適しています。
審査方法・ハードルの違い
電子記録債権では債務者の信用力が重要で、一定の信用力がないと利用が難しい場合があります。一方で、ファクタリングは売掛先の信用力を基準に審査が行われるため、利用者自身の信用力が低くても利用しやすい特徴があります。
またファクタリングの審査は迅速なので最短即日入金など、短期間で資金調達が可能です。この点で審査のハードルやスピードが大きく異なります。
手数料の違い
電子記録債権の手数料は比較的低く、取引金額に対して低率で設定されることが一般的です。一方ファクタリングは5～20％程度の手数料がかかることが多く、短期的な資金調達コストとしては割高です。
ただしファクタリングではスピーディな資金調達が可能であり、手数料が高くても短期資金繰りのメリットを考慮して利用されるケースが多いです。
契約管理や管理コストの違い
電子記録債権は「でんさいネット」を利用して電子的に管理されるため、紙の契約書類の保管が不要で、管理コストが低いのが特徴です。
ファクタリングでは契約書類を物理的に保管し、手続きが発生するため、管理の手間やコストが増える場合があります。
電子記録債権（でんさい）の仕組みやメリット
電子記録債権（でんさい）の仕組み
電子記録債権（でんさい）は、全国銀行協会が提供する「でんさいネット」を利用した電子的な金銭債権の管理システムです。
紙の手形に代わる決済手段として設計され、債務者が支払う金額や期日を電子的に記録します。これにより、取引の効率化と透明性を実現しています。
記録された債権は譲渡や分割が可能で、資金調達の選択肢を広げる仕組みを持っています。
電子記録債権（でんさい）の利用方法
電子記録債権の利用には債務者と債権者の両方が「でんさいネット」に登録する必要があります。
登録後は債務者が債権内容（支払金額や期日）を記録し、債権者が承認します。その後、記録された債権は、債権者が満期に資金を受け取るか、期日前に他者へ譲渡または現金化することが可能です。
譲渡の場合もシステムを通じて手続きが行われるため、事務作業が軽減されます。
電子記録債権（でんさい）の仕訳方法・勘定科目
電子記録債権の受取時と満期時の仕訳は以下の通りです。
- 受取時の仕訳
- 借方：電子記録債権（資産増加）
- 貸方：売掛金または売上（収益の発生）
- 満期時の仕訳
- 借方：現金または預金（資産増加）
- 貸方：電子記録債権（資産減少）
これにより、債権の管理と資金の流れを明確にすることができます。
電子記録債権（でんさい）のメリット
電子記録債権の最大のメリットは、取引の効率化と透明性の向上です。手形と異なり紙媒体が不要なため、発行や管理のコストを削減できます。
また債権の譲渡や分割が容易で、資金繰りに柔軟性をもたらします。さらに、でんさいネットを通じてリアルタイムで債権の状況を把握できるため、信用リスクの軽減にもつながります。
電子記録債権（でんさい）のデメリット
一方で電子記録債権にはいくつかのデメリットも存在します。まず、利用には債務者と債権者の両者が登録している必要があり、利用可能な範囲が限定される場合があります。
また記録や譲渡の際には手数料が発生するため、頻繁な利用ではコストが増加します。さらに電子システム特有のリスクとして、システム障害や不正アクセスの可能性が挙げられます。
これらを理解し、導入時にはコスト対効果を十分に検討する必要があります。
電子記録債権は効率的な取引管理と資金調達を実現するツールですが、利用のハードルやコストを考慮し、自社のニーズに合った活用方法を検討することが重要です。
ファクタリングの仕組みやメリット
ファクタリングの仕組み
ファクタリングは企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、期日前に現金化する資金調達方法です。
この仕組みにより売掛先からの入金を待たずに資金を確保することが可能になります。
契約には主に償還請求権なし（ノンリコース）という形式が用いられ、万が一売掛先が倒産しても、利用者には返済義務が生じない点が特徴です。
ファクタリングは融資とは異なり、借入ではなく売買契約として位置づけられるため、負債として計上されないメリットもあります。
ファクタリング利用の流れ
ファクタリングの利用は相談から資金の受け取りまで比較的スムーズに進みます。まず、利用者がファクタリング会社に相談し、売掛債権の詳細を提示して見積もりを依頼します。
その後売掛先の信用力や経営状況を基にした審査が行われ、契約条件が合意されると契約が締結されます。
契約後は手数料を差し引いた金額が利用者に振り込まれます。特に2社間ファクタリングでは売掛先への通知が不要で、スピーディーに資金を得られる点が多くの企業に支持されています。
ファクタリングの仕訳方法・勘定科目
ファクタリングを利用する際には売掛債権を売却するため、会計上特定の処理が必要になります。
売掛金を現金化した際は、借方に「現金」、貸方に「売掛金」を記載し、手数料は「売掛債権売却損」として計上します。
例えば100万円の売掛金を90万円で売却した場合、現金が増加すると同時に10万円の費用が発生した形となります。この仕訳により、資金調達の流れを明確に管理することができます。
ファクタリングのメリット
ファクタリング最大のメリットは、迅速な資金調達が可能である点です。通常の銀行融資と比較して審査基準が緩く、最短即日で資金を得られることが多く、急な資金ニーズに対応できます。
また売掛債権の売却という形で資金調達を行うため、負債として計上されず、決算書の見栄えを改善する効果も期待できます。
さらに赤字決算や債務超過の企業でも売掛先の信用力を基に審査が行われるため、利用しやすい点がメリットです。
また償還請求権なしの契約の場合、売掛先が倒産しても返済義務が生じないため、未回収リスクを軽減することができます。
ファクタリングのデメリット
一方でファクタリングにはデメリットも存在します。最大の課題は手数料が高いことで、一般的に売掛金額の5～20％が手数料として差し引かれるため、コスト負担が大きくなりやすいです。
また違法な悪徳業者が存在し、不透明な契約や高額な手数料を請求されるリスクもあります。またファクタリングは一時的な資金調達手段であるため、長期的な資金繰り改善には向いていません。
利用する際には、これらのデメリットを十分理解し、信頼できる業者を選ぶことが重要です。
電子記録債権とファクタリングはどちらを選ぶべきか
資金調達や決済方法を選ぶ際には、電子記録債権とファクタリングのどちらが自社に適しているかを判断することが重要です。利用目的や企業の状況によって、それぞれに適したケースがあります。
電子記録債権の利用がおすすめのケース
電子記録債権は、信頼性の高い取引先との継続的な取引や決済効率の向上を目的とする企業に適しています。この方法は手形に代わるデジタル形式の債権であり、紙の手形と比べて手続きや管理の手間が少ない点が特徴です。
特に長期的な取引関係を維持しながら効率的に債権を管理したい場合に役立ちます。また電子記録債権は分割譲渡が可能であるため、大規模な取引や複数の債権者との柔軟な債権運用が求められる場合に向いています。
支払いや受取の手続きが簡単になるため、事務作業の負担軽減を重視する企業におすすめです。
ファクタリング利用がおすすめのケース
ファクタリングは急な資金ニーズに対応したい場合や資金繰りを改善したい企業に向いています。売掛債権を早期に現金化できるため、売掛金の回収サイトが長い取引が多い場合でも迅速に資金を確保できます。
特に赤字決算や債務超過の企業でも利用可能である点が大きな魅力です。また銀行融資に比べて審査のハードルが低く、売掛先の信用力が審査対象となるため、自社の信用力に不安がある企業でも資金調達が可能です。
さらに資金調達が必要なタイミングでスポット的に利用できるため、臨時的な資金不足の解消に適しています。
それぞれの特徴を理解し、自社の状況や資金調達の目的に応じた選択をすることで、資金繰りを効率よく改善できます。
