2社間ファクタリングを利用する際にファクタリング会社から、債権譲渡登記を求められるケースがあります。債権譲渡登記とは債権を担保に融資する場合や、ファクタリング利用時に必要となる手続きですが、登記制度をうまく活用するには概要について理解する必要があります。
今回はファクタリング利用時に求められる債権譲渡登記の概要や目的・必要性について解説しながら、債権譲渡登記を行うことにメリットやデメリットについて解説していきます。後半では債権譲渡登記が不要な会社も紹介します。
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債権譲渡登記とは?概要や目的を解説
債権譲渡登記とは債権の譲渡時に法務局で登記を行うことで、債権者以外の第三者に対して対抗するための手続きを指します。しかしこれだけでは理解ができないので、まずは債権譲渡登記とはどんな概要で、どのような目的で活用される制度なのかを解説していきます。
債権譲渡登記の概要
債権譲渡登記は上述の通り第三者に対して対抗するために行う手続きですが、債権譲渡の登記を行うことで債権がいつ・誰から譲渡されたのかを公的に証明するものです。
債権譲渡登記制度は債権流動化をはじめとした法人の資金調達手段の多様化を背景として、1998年10月から開始された制度でです。2005年10月には更なる資金調達の多様化を図る目的で、将来債権の譲渡についても登記することで、第三者の抵抗要件を持てるようになっています。
将来債権とは継続的な取引で将来も定期的に発生する債権のことを指します。例えば月額30万円の契約が1年間続くという契約があれば、請求書がなくとも契約締結済みであれば将来債権とみなします。
債権譲渡が行われる場面としてはファクタリングサービスの利用・割引手形・債権回収・債権譲渡担保などがあります。ファクタリングとは保有している売掛債権(入金期日前の請求書)を、ファクタリング会社に買い取ってもらうことで、資金調達を行う方法です。
近年では最短即日で資金調達ができる完全オンラインファクタリング・AIファクタリングも登場したことで、利用者が年々増加傾向にあります。融資とは異なり審査が柔軟で即日で資金調達ができため、中小企業や個人事業主の資金繰り改善にも利用されています。
債権譲渡登記の目的
債権譲渡登記の目的はファクタリング会社などの譲受人が、譲渡された売掛債権について自分が債権者であることを主要できるようにすることです。
債権譲渡の対抗要件には下記の2つの要件があります。
| 対抗要件の種類 | 詳細 |
| 第三者対抗要件 | 債権が二重譲渡された場合に 同一債権について債権者同士の優劣を決定する |
| 債務者対抗要件 | 債権者が債務者から弁済を拒否されないための要件 |
第三者対抗要件は主にファクタリングが二重譲渡を防止する目的で利用され、仮に利用者が同一債権を別会社とファクタリング契約を結んだとしても、先に債権譲渡登記を行なっている方が譲渡されている権利を主張できる時に行使します。
債務者対抗要件は債務者の二重支払いを防止するために、債務者は債権者の主張する者から支払い請求を受けた場合でも、その債権者が債務者対抗要件を備えるまでは弁済を拒否できるようになっています。
民法上では債権者と第三者対抗要件を備えるためには、債権譲渡の日付が確定した証書によって、譲渡人から債務者への通知・または債務者による譲渡の承諾が必要と定められています。
しかしこうした手間を削減できるのが債権譲渡登記で、債務者への通知や承諾の必要はなく、債権者は第三者に対抗要件を持つことができます。
債権譲渡登記の効力
債権譲渡登記には法人の登記簿謄本など登記事項証明が必要となっており、法人企業のみが利用できる制度です。債権譲渡登記では第三者対抗要件のみが備えられ、債務者抵抗要件までの効力を持つことはできません。
そのため債権譲渡登記を行なったとしても債務者に対して、債権譲渡登記がある事実を公的な書類としては証明はできません。ファクタリング時に要求される債権譲渡登記は、あくまでもファクタリング会社側の対抗要件のみということです。
また債権譲渡登記は債務者を関与させることなく、債権者が第三者の対抗要件を備えることが可能です。債権譲渡登記は譲渡人と譲受人が共同で申請を行うため、両者が共謀して実際には存在しな債権や、既に消滅している債権登記を行う可能性もあります。
この観点から債権譲渡登記によって債権の存在や譲渡が公的に証明されるというわけではありません。
ファクタリングで債権譲渡登記を求めらる2つの理由・役割
ではファクタリング会社ではなぜ債権譲渡登記を求めることがあるのでしょうか?その理由は下記の2点です。
- 二重譲渡を防止できる
- 法的根拠による架空債権などのトラブル防止
(1)二重譲渡を防止できる
ファクタリング会社が債権譲渡登記を求める1つ目の理由は、売掛債権の二重譲渡を防止できるという点です。二重譲渡とは売掛債権の売買契約が他社で決定している請求書で審査申込を行い、ファクタリング会社から資金を騙し取る詐欺行為を指します。
債権は目には見えない資産であるため、当事者間の意思決定で譲渡が成立する場合は、二重譲渡の発生リスクは拭いきれません。仮に二重譲渡が発生した場合は2人の債権者が1つの売掛債権を保有する状態となり、権利が重複するため片方の債権者債務の弁済を受けれません。
弁済を受けれないということは、片方のファクタリング会社は債権の購入代金が損失となります。こうなると債務不履行による損失をファクタリング会社が回収するには、二重譲渡を行った利用者に対して損害賠償請求といったように、法的措置を取る必要があります。
しかし法的な対応を取る場合は時間や工数が発生するため、事前に防止できるならば二重譲渡の発生は避けたいと考えるのが一般的です。そのため債権譲渡登記を事前に行っておくことで、二重譲渡を防止し債務不履行を避けることができるのです。
(2)法的根拠による架空債権などのトラブル防止
ファクタリング会社が債権譲渡登記を求める2つ目の理由は、法的根拠をもった状態で架空債権などのトラブルを防止できるという点です。
ファクタリング契約を実施する場合は、上記のような二重譲渡や架空の請求書を作成して売却し、ファクタリング会社から資金を騙し取る詐欺行為を行う利用者のリスクも考える必要があります。
しかし譲渡された債権が債権譲渡登記されている状態であれば、ファクタリング会社は登記を債権買取の法的な根拠として主張することができるようになります。
例えばファクタリング会社が売掛先から売掛金の回収ができないという状態になった場合は、裁判によって損害賠償請求を行う必要があり、裁判では法的な根拠のある書類が必要となります。
ファクタリング契約は償還請求権がないノンリコース契約であるため、売却された債権の回収はファクタリング会社が責任を負うことになります。仮に何かしらのトラブルが生じた時に債権譲渡登記を行っていれば、ファクタリング会社は不足の事態でも債権回収ができます。
ファクタリング利用時に債権譲渡登記を行うメリット
ファクタリング会社側:未回収リスク・二重譲渡を防止できる
ファクタリング会社側が債権譲渡登記を行うメリットは上述でも触れたように、二重譲渡の防止や架空債権といった詐欺行為を未然に防止することができる点です。
債権譲渡登記はファクタリング会社側としては、対抗要件を持つことができるため、仮に二重譲渡が発生しても売掛債権が譲渡されている権利を主張できます。
また仮に売掛金が回収できないといった状態になったと時に、法的な書類を用意しておくことで債権回収ができます。
利用者側:手数料を安くできる可能性がある
逆にファクタリング利用者側のメリットとしては、手数料が安くなる可能性があるという点です。債権譲渡登記を行うことで上述のように架空請求や二重譲渡のリスクを防止できるようになります。
そのためリスクが低くなる分、ファクタリング会社も手数料を下げてくれる場合があります。債権譲渡登記が必須といった場合には、リスク防止ができるため手数料を下げれないか交渉してみるようにしましょう。
ファクタリング利用時に債権譲渡登記を行う3つのデメリット
ただしファクタリング時の債権譲渡登記はデメリットもあります。
- 債権譲渡登記の費用を負担する必要がある
- 売掛先にファクタリング利用がバレる可能性が高まる
- 個人事業主・フリーランスは債権譲渡登記の場合は利用できない
(1)債権譲渡登記の費用を負担する必要がある
ファクタリング会社から債権譲渡登記を求められた場合は、手数料とは別に登記費用を負担する必要があります。債権譲渡登記を行うためには、登録免許税あ必要となり、申請手続きを司法書士に依頼する場合は5〜10万円程度の費用が発生します。
司法書士に依頼せずに登記を行うこともできますが、法務局で登記申請を行う必要があるため、平日の時間を使うことなります。個人事業主やフリーランスなどが10万円未満など少額ファクタリングを行う場合は、資金調達できる金額がかなり小さくなります。
そのため費用を抑えたい場合は債権譲渡登記が不要なファクタリング会社を選ぶようにしましょう。
(2)売掛先にファクタリング利用がバレる可能性が高まる
また債権譲渡登記に限らず不動産登記や商業登記などの登記情報は、法務局で手数料を支払い申請を行えば、誰でも閲覧ができるようになっています。
可能性としては低いですが仮に売掛先企業が自社の売掛債権の情報を確認すれば、ファクタリング利用がバレてしまいます。
ただしわざわざ自社の売掛債権の登記情報を法務局にいって、手数料を支払って調べる可能性は低いですが、知られる可能性がゼロではないことを理解しておきましょう。
(3)個人事業主・フリーランスは債権譲渡登記の場合は利用できない
デメリットの3つ目は個人事業主やフリーランスの場合は、ファクタリング利用ができないという点です。先ほども触れましたが、債権譲渡登記ができるのは法人企業に限定されています。
そのため実質的に個人事業主やフリーランスは2社間ファクタリングの利用はできなくなり、債権譲渡登記ありにしている場合は法人企業をメイン顧客としている場合もあります。
ファクタリング会社の中には法人のみを顧客にしている場合や、個人事業主やフリーランスにも対応しているケースもあるため、債権譲渡登記が不要な会社を選びましょう。
債権譲渡登記の申請方法や確認・閲覧方法
次は債権譲渡登記の申請・確認方法や閲覧方法について解説していきます。
債権譲渡登記の申請方法
債権譲渡登記を申請する場合は債権者(ファクタリング利用者)と、譲受人(ファクタリング会社)が共同で申請する必要があります。債権譲渡に関する登記申請は債権譲渡登記・延長登記・抹消登記の3つの種類があります。
- 延長登記:債権譲渡登記の存続期間を延長する手続き
- 抹消登記:債権譲渡が取消・解除によって効力を失った場合の手続き
延長登記は名前の通りですが存続期間を延長するものです。債権譲渡登記は存続期間が規定されており、債務者が特定している場合は50年以内・特定してない場合は10年以内と決まっています。
上記の期間を延長する事由が発生した場合には、延長登記を行うことができます。ただし一般的なファクタリングではこうした手続きが発生することは少ないでしょう。
抹消登記は避けん譲渡が取消や解除によって効力を失った時にや、当初から効力を持っていなかったという場合、譲渡債権が弁済といった理由で消滅した時に実施する手続きです。
1件の申請で複数債券を譲渡していた場合は、その中の一部債券のみを抹消することもできます。債権譲渡登記の申請方法は登記書に訪問する・郵送申請やオンライン申請・事前提供方式などがあります。訪問や郵送の場合は必要書類も発生するため、オンラインがおすすめです。
オンライン申請の場合は法務省オンライン申請システム上でデータ申請を行うことで、申請が完了します。詳細は下記のパンフレットでも解説されています。
- 法務省民事局:債権譲渡登記制度のご案内
債権譲渡登記の確認方法
先ほど触れたように債権譲渡登記の内容は誰でも確認することができますが、誰もが詳細な情報にアクセスできるわけでもありません。債権譲渡登記の情報を閲覧するには下記の3つの書類があり、それぞれ内容や請求ができる人物は異なります。
| 証明書 | 証明書内容 | 請求できる人物 | 請求先 |
| 登記事項証明書 | 債権譲渡登記の詳細な情報 | 当事者に限定 | 東京法務局民事行政部債権登録課 |
| 登記事項概要証明書 | 債権譲渡登記の大まかな情報 | 誰でも可能 | 東京法務局民事行政部債権登録課 |
| 概要記録事項証明書 | 該当企業が譲渡人となっている 債権譲渡登記の有無 | 誰でも可能 | 全国の法務局 |
債権譲渡登記は詳細な情報を当事者以外が確認することはできないようになっています。当事者以外が見れない点については、債務者にとってはメリットと言えます。
債権譲渡登記の閲覧方法
債権譲渡登記の内容を閲覧するには法務局の登記情報提供サービスを利用する・各種証明書を取得する2つの方法があります。
- 登記情報提供サービス:平日8:30〜21:00まで・土日祝日の8:30〜18:00まで利用可能
- 各種証明書:窓口申請・郵送請求・オンライン申請の3種類
- 窓口申請:東京法務局で必要書類の提示で証明書が発行
- 郵送申請:必要書類とともに返信用封筒と郵便切手の同封
- オンライン申請:電子証明書取得・オンラインデータ作成・データ申請・登録免許税の納付
- オンライン申請の詳細:(債権譲渡登記等)オンライン登記申請の手続
また窓口申請・郵送交付で発生する費用は下記のとおりです。
- 登記事項証明書:債権1個につき500円、債権2個以上の場合は1個目500円+債権の追加につき200円
- 登記事項概要証明書:1通300円
- 概要記録事項証明書:1通300円
債権譲渡登記で記録される内容
債権譲渡登記が実施されると東京法務局でのみ交付される登記事項概要証明書に最新の登記情報が記載されます。また譲渡した譲渡人の本店所在地のある法務局が交付する、概要記録事項証明書でも同様の内容を確認できますが、登記原因や存続期間まで把握はできません。
ただし概要記録事項証明書の場合は譲渡人の称号や本店所在地に変更があるケースでも、それまでに譲渡人がおこなった債権譲渡登記の概要が全て記載された証明書の交付を受け取ることができます。
両者にはそれぞれにメリット・デメリットがありますが、詳細内容を知りたい場合は、下記の内容が記されている登記事項証明書を取得するこになります。
- 譲渡人の商号または名称、および本店または主たる事務所
- 譲受人の氏名、および住所(法人は商号または名称、および本店または主たる事務所)
- 譲渡人または譲受人の本店または主たる事務所が外国にある場合、日本にある営業所または事務所
- 登記原因、およびその日付
- 譲渡にかかる債産を特定する上で必要な事項のうち、法務省令で定めるもの
- 登記の存続期間
- 登記番号
- 登記の年月日
因みに登記事項概要証明書・概要記録事項証明書は詳細内容の開示となるため、下記の項目に該当する人しか交付請求ができない仕組みになっています。
- 譲渡にかかる債権の譲渡人、または譲受人
- 譲渡にかかる債権を取得した方
- 譲渡にかかる債権を差し押さえ、または仮に差し押さえた債権者、もしくはこれらの債権を目的とした質権や担保権などの権利を取得した方
- これらに掲げる方の財産管理および処分をする権利を有する方
- 譲渡にかかる債権の譲渡人の使用者
債権譲渡登記の2つの注意点
債権譲渡登記の注意点としては下記の2つです。
- 債権の保有と譲渡を証明する書類の作成
- 譲渡禁止の債権ではないことをチェックする
(1)債権の保有と譲渡を証明する書類の作成
債権譲渡登記を用いる場合は、債権の保有と譲渡を証明する書類作成が重要です。紹介したように債権とは目に見えない資産のため、保有や譲渡について証明することが難しいものです。
債権譲渡登記に関するトラブルを避けるためには、債権の譲渡人・譲受人が同意した上で債権譲渡契約を締結し、譲渡に関する契約書を作成しておくのが良いでしょう。
(2)譲渡禁止の債権ではないことをチェックする
債権譲渡を行う場合は売却する債権が譲渡禁止特約に該当していないか確認する必要があります。売掛債権の中には債権譲渡禁止特約が付与されているものもあります。
債権譲渡禁止特約が付与されている債権を譲渡された場合は、譲受人が債権を行使することが難しいです。有効なファクタリングを実施するためには、禁止特約を解除する必要がありますが、デメリットも大きいです。
債権譲渡登記は2社間ファクタリングで求められるものですが、特約解除の交渉に申し出ればファクタリング利用がバレてしまう可能性が高くなります。
また基本的には禁止特約がついているには、何かしらの理由があるため、解除は難しいことが多いです。そのためファクタリング利用をする場合は、譲渡禁止特約がついていない売掛債権を利用するようにしましょう。


